送り迎えが回らない、月謝が家計に乗らない、誘っても本人が乗り気にならない。理由はさまざまでも、行き着く言葉は似ています。「うちだけ何もさせていない気がする」「かわいそうなのではないか」。
この「かわいそう」は、子どもの状態を説明した言葉ではありません。多くの場合、保護者側の不安に付いた名前です。名前のままでは動かせないので、まず何が不安なのかを分けます。
先に結論:させていない家庭は珍しくない
学研教育総合研究所の「幼児の日常生活・学習に関する調査」(2022年9月調査)では、就学前から習い事をしている子どもは56.1%でした。裏を返せば、4割強の家庭は何もしていないことになります。半数を少し超える程度で、全員がしているわけではありません。
割合を知っても不安が消えるとは限りませんが、少なくとも「うちだけ」ではないことは確認できます。そのうえで、この記事では次の順で整理します。
1. 「かわいそう」と感じたきっかけを三つに分ける 2. させられない理由を、変えられるものと変えられないものに分ける 3. 通わないまま経験を積む形と、決め直す時期を置く
「かわいそう」と感じたきっかけを三つに分ける
同じ言葉でも、出どころが違えば確認することが変わります。
| きっかけ | 実際に起きていること | 先に確認すること |
|---|---|---|
| 子ども本人が言った | 「わたしもやりたい」と口に出している | 何を指して言っているのか |
| 周りから言われた・周りを見て気になった | 家族や知人の言葉、園での話題 | それが今の家庭の条件に合うか |
| 誰にも言われていないが不安 | 将来の遅れを先回りして心配している | 何がいつまでに必要だと思っているか |
三つが重なることもあります。ただ、いちばん強いものを一つ選ばないと、次に変える項目が決まりません。
子ども本人が言っている場合
このときだけは、子どもの側に用事があります。ただし「やりたい」の中身は、活動そのものとは限りません。
- 友だちと同じ場所へ行きたい
- その場所の道具や服が魅力的に見えた
- 送り迎えの車や、終わったあとの寄り道が楽しみ
- 親と二人で出かける時間がほしい
どれなのかで、必要なものが変わります。友だちと過ごしたいのなら、月謝の教室でなくても足ります。親と二人の時間がほしいのなら、習い事はむしろ遠回りです。
聞き方は、「習い事したい?」ではなく「どこで、誰と、何をしているところを思い浮かべた?」に寄せます。答えが出ないうちは、決めなくて構いません。
周りから言われた・周りを見て気になった場合
「そろそろ何かさせないと」という言葉は、言った側の経験から出ています。その家庭の送迎体制、きょうだいの人数、収入、住んでいる場所を含めた条件の上に成り立った判断です。条件が違えば結論も変わります。
比べる材料になりやすいのは、実際には次の三つだけです。
- 通える距離に教室があるか
- 月謝と用品の合計を、毎月無理なく出せるか
- 送迎の時間を、毎週同じ曜日に確保できるか
この三つが揃っていないのに「周りがしているから」で始めると、数か月後に辞める話をすることになります。費用の出方は月謝だけでは決まらないので、幼児の習い事にかかる費用と家計・送迎計画で1か月と1年の負担を分けて見積もってから決めてください。
誰にも言われていないが不安な場合
いちばん多いのがこれで、いちばん動かしにくいものでもあります。「今やらせないと遅れる」という形の不安には、たいてい期限が入っていません。期限のない不安は、何を始めても消えません。
紙に一行書いてみると輪郭が出ます。
> 「◯歳までに、◯◯ができていないと困る」
書けたなら、それが本当に幼児期に必要なことかを確認します。書けないなら、今の不安は具体的な不足ではなく、情報の量に反応しているのかもしれません。
文部科学省の幼稚園教育要領は、幼児期の教育を「遊びを通しての総合的な指導」を中心とするものとして示しています。決まった曜日に月謝を払う場でなければ経験が積めない、という前提は置かれていません。
させられない理由を、変えられるものと分ける
「させていない」の背景には、たいてい具体的な制約があります。制約ごとに、先に試せることが違います。
| 理由 | 先に試せること | 関連する記事 |
|---|---|---|
| 月謝と用品が家計に乗らない | 1年分の総額で比べ直す。回数の少ない形を探す | 費用・家計・送迎 |
| 送迎の時間が取れない | 曜日と時間帯を先に決めてから教室を探す | 共働き家庭で家と外の学びを分ける |
| 本人が乗り気にならない・嫌がる | 「いや」の中身を分けてから判断する | 2歳が習い事を嫌がるとき |
| きょうだいの予定が重なる | 同じ時間帯に一か所で済む形を優先する | 親が休むために外の人へ頼る |
| 通える範囲に教室がない | 移動のいらない形へ切り替える | 幼児向け通信教育の選び方 |
変えられない条件を無理に変えようとすると、続きません。制約のほうを前提に置いて、その中で成り立つ形を探すほうが早いという順序になります。
費用が理由のとき
月謝だけを見て「出せない」と判断していると、実際には出せた選択肢を落としていることがあります。逆に、月謝だけを見て「出せる」と判断すると、入会金、用品、発表会、送迎のガソリン代が後から乗ります。
判断は1か月ではなく1年で行います。年に一度しかない支出が入るためです。総額で見て無理なら、その教室は今は選ばないという結論で構いません。
送迎と時間が理由のとき
送迎は、始める前は「なんとかなる」と見積もられがちで、始めたあとに効いてきます。特に、園の迎えから教室までの30分と、終わってから夕食までの時間は、週によって伸び縮みします。
先に曜日と時間帯を決めてから教室を探すと、候補は減りますが、続く候補だけが残ります。順番を逆にすると、気に入った教室に生活のほうを合わせることになり、無理が出ます。
本人が乗り気にならないのが理由のとき
「させていない」のではなく「させられない」状態です。体験に行っても入りたがらない、誘っても反応が薄いという場合、活動が嫌なのか、場所や人数が嫌なのか、そもそもその日の体調なのかで打つ手が変わります。2歳前後で言葉にできない時期の分け方は2歳が習い事を嫌がるときに、言葉で理由を伝えられる年齢の判断は幼児が習い事を嫌がるときの休み方・辞めどきにまとめています。
人の多い場所や初対面が苦手に見える場合は、教室そのものより環境の条件が合っていない可能性があります。人見知り・集団が苦手な子の習い事選びで、慣れさせる前に見る項目を確認できます。
教室に通わないまま経験を積む
習い事の代わりになるものを探すより、その子に足りていない経験が何かを先に決めるほうが選びやすくなります。多くの場合、挙がるのは次のどれかです。
- 家族以外の大人と関わる
- 同年代の子と同じ場所で過ごす
- 順番を待つ、交代する
- 体を大きく動かす
- 集中して手を動かす
このうち「家族以外の大人」と「同年代の子」は、園や地域の場でも積めます。園、習い事、地域の遊び場や支援拠点を、関わる人数と保護者の負担から比べたものが幼児の社会性を育てる場所の違いです。
こども家庭庁のこども誰でも通園制度のように、就労の有無にかかわらず利用を想定した仕組みもあります。対象年齢、利用時間、申込方法は自治体と施設によって異なるため、住んでいる市区町村の案内で確認してください。
体を動かす、手を動かすについては、道具と場所があれば家庭でも積み上がります。ただし、親が付きっきりで教える形にすると続きません。子どもが自分で始めて自分で終われる形に寄せます。
家庭でやるなら、続く形から選ぶ
先ほどの調査では、幼児の習い事のうち通信教育は10.5%でした。水泳21.8%、英会話・英語塾12.6%、体操教室11.5%に次ぐ位置です。通う形が難しい家庭が選んでいる、というだけの数字ではありますが、選択肢として一定の広がりがあることは分かります。
家庭でやる形には、送迎がない代わりに親の伴走時間が増えるという別のコストがあります。紙・タブレット・体験教材で、必要な親の関与量が変わるため、そこを見ないで選ぶと積み上がります。型ごとの違いと、管理にかかる時間の見積もりは幼児向け通信教育の選び方で比べられます。
始める場合も、いきなり年間契約に寄せる必要はありません。短い期間で試し、続かなかったら止めてよい、という前提のほうが判断が楽になります。
「今はしない」を期限つきで決める
いちばん消耗するのは、させないと決めきらないまま、毎月気にし続ける状態です。決めていないので不安は消えず、始めてもいないので変化も起きません。
期限を置くと、この状態から出られます。
- 「年少の間はしない。年中に上がったところでもう一度考える」
- 「下の子が◯歳になるまでは動かさない」
- 「夏まで様子を見て、本人が三回同じことを言ったら体験に行く」
決め直す時期を先に置いておけば、その間は考えなくて済みます。何歳から始めるかに一つの正解はなく、始める前に見ておく項目は年齢によって変わります。2歳前後で迷っている場合は2歳の習い事は早い?始める前に確認したい5つのサイン、実際に動き出す段になったら幼児の習い事の選び方が入口になります。
比べる相手を減らす
「かわいそう」は、比べる相手がいるところにしか生まれません。相手が増えるほど、条件の違う家庭と自分を並べることになります。
保護者側の余力が落ちているときほど、この比較は強く効きます。送迎と月謝を足しても家庭が回る状態なのか、それとも今すでに手いっぱいなのかは、子どもの状態とは別に確認する価値があります。親の側の休みを削って捻出した習い事は、たいてい親のほうが先に続かなくなります。親が休むために外の人へ頼る選択肢では、習い事以外の頼り方も扱っています。
家庭だけで抱えないとき
次の場合は、習い事をするかどうかの判断より先に、相談先を持ってください。
- 子どもの発達や言葉について、園や健診で気になる指摘があった
- 保護者自身が眠れない、気持ちが落ち込む状態が続いている
- 経済的な事情で、生活そのものが立ち行かなくなっている
かかりつけ医、自治体の子育て相談窓口、園の担当者が窓口になります。こども家庭庁の幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョンも、こどもの育ちを家庭だけで支えるものとしては扱っていません。この記事は医療的な判断や発達の評価を示すものではありません。
今日の次の一歩
今日は教室を探さず、紙に二行だけ書いてください。
1. 「かわいそう」と感じたきっかけは、本人・周囲・自分の不安のどれか 2. 今させていない理由のうち、来月までに変えられるものはあるか
二行目が「ない」なら、次に考える時期を一つ決めて、そこまでは考えないことにします。あるなら、変えられる一つだけを動かして、また一か月見ます。どちらの場合も、今日決めなければならないことはありません。